「みどり、自然、すまい」の話(6)

 

 

 とくに最近目につくのが、私の住む大田区の鵜の木地区だけでなく東京のあちらこちらでの宅地化です。

 9年ぶりに行ったという大田区の「みどりの実態調査」(2018年度)では:

「樹木被覆地は区全域で46.09㌶の減少で、そのうちの約9割が台地部で減少している。樹木被覆地の減少箇所は集合住宅や戸建住宅に代わっているものが多く、住宅地が増えることで緑被値が減少していると考えられる」と、近年、みどりが少なくなっていることを区も認めているのです。でも、行政には宅地化を止める打つ手がない…?

 

 最近ですが、私の家の裏の一軒家の跡地にも4軒の家が隣接して建ちました。私の家の斜め前の大きな屋敷跡には、今9件の建売住宅が建っています。

 「えっ、こんなところにかやぶきの屋根がある!」と通りがかりの人々がよく驚いていたこの辺り(大田区鵜の木地区)の地主さん(天明家の本家)のみどり豊かな敷地も、つい最近、あっという間に更地になり、今そこには大きなマンションが建っています。

 こうして、みどり豊かなまちが壊れていくのに私たち住民は何もできません。行政側も民有地には何もできないのだろうとあきらめかけていたのですが・・・・。

 

 鵜の木地区の屋敷林のみどりが次々に消えていく中、隣接した西嶺町に昔の農村の面影を残している緑地が奇跡的に残っていました。通称「梅の里」と呼ばれているこのあたりは、早春には家々の庭の桃や梅の花が満開になり、あたり一帯がピンク一色の別世界となって道行く人々を楽しませていました。

 この貴重な緑地(0.38㌶)が、今秋、大田区の「特別緑地保全地区」に指定され、大田区はそのことを正式に告示(2020年11月9日)しました。

 

 この指定により緑地所有者は、今まで通りにそこに住み、不動産税の軽減や樹木管理助成を区から受けられ、家屋や樹木の現状が維持されるのですから、「ウィンウィンでよかった」、なによりも「いまどき、自己利益ばかり考えない人もいたのだ」と私は思ったのですが、大田区のまちづくり推進課の担当者は「人がこの地区に大勢押しかけると静かに暮らしたいといっている地権者が困るのでは」と告示後に心配しているのです。

 同じ名前の表札がいくつもあり、どれが本家でどれが分家かも私たちにはわかりませんが、この一族は「四国の長曾我部の家来で武家の出」と人づてに聞いています。

 江戸時代、2代目の当主が雑貨商で読み書きそろばんができたことから、3代目がこの地に寺小屋を開いたそうで、その寺小屋跡の碑は今も梅の木々の陰に埋もれ、ひっそりと立っています。

 先日そのあたりを歩いたら、この一族の一軒の家の玄関先に「ご自由にご覧下さい」の看板が・・・。覗いてみると、奥の玄関には「お月見」のしつらえが・・・。3月には赤毛氈のひな壇が飾られます。

 

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            お月見のしつらえが公開され、左には「ご自由にご覧下さい」との案内が

 

 早春、この一帯に広がる梅や桃の花のピンク一色の世界、そしてこのような季節のしつらえというすばらしい「おもてなし」に、この辺りを散策する私たちの心は和み、昔懐かしい自然とくらしの情景が都内にまだ残っていることに驚き、心より感謝をしているのです。

 「大田区の心配は杞憂に過ぎなかった」といえるように、私たち周りの住民一人ひとりもみどりの環境を守り、個々人の生活を守るべく配慮をする責任があると私は思います。

 

 今回の区による西嶺町の民有緑地の保全により、イギリスのボランティア団体「ナショナルトラスト」を思い出しました。この団体の目的は単なる環境保護だけでなく、歴史的建造物や景勝地を国民の遺産として保持することで、ナショナル・アイデンティティー(愛国心や国民の一体感)を形成することを目指しているとWikipediaにありましたが、今回の指定で大田区は貴重な歴史や文化も残すことができたわけです。今回の行政の快挙のおかげで、ちょっと豊かな気持ちになりました。