「みどり・自然・すまい」(9)

 私は「鵜の木通信」を2か月に一回の割合で自費出版し、地元に配っています。

 今回から、地域のことでなく広く皆さんに知ってもらいたい記事をブログで紹介することにしました。今回紹介する記事は「鵜の木通信」7号(2021年11月20号発行)の記事「まちに林立する電信柱を考える」です。

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まちに林立する電信柱(鵜の木地区で)

●まちに林立する電信柱を考える。

 海外を訪れると、電信柱のない各都市のまち並みがとても美しいと思います。電信柱がなくなれば、私たちのまちの景観はもっとよくなるはずです。一方、阪神淡路大震災東日本大震災や令和元年の台風15号では、倒壊した電信柱が道路をふさぎ、緊急活動や物資の輸送が滞る、大停電が発生するなどの事態が発生しました。直下型地震が東京で起ったら、一体どうなるでしょう。平時でも、電信柱のせいで交通事故に巻き込まれ、命を落とす人が大勢います。

 気候変動が深刻化している昨今、まちの電信柱の地中化は国や自治体の都市計画の重要課題です。

 先の2020東京オリンピック開催で東京の都心部(センター・コア・エリア)の都道(約530 ㎞)の無電柱化はほぼ100%完了(都道路管理部安全施設課)。大田区もオリンピックホッケー会場周辺の区道の無電柱化を実施しました。(区都市基盤管理課)

 道路には国道、都道区道、私道がありますが、無電柱化が進行中あるいは計画中となっているのは道幅の広い道路に限られています。大田区内を走る都道の環八や中原街道の無電柱化は目下進行中ですが、多摩堤通り都道)の無電柱化は、今現在0%です。(都道路管理部安全施設課)。

 大田区は2021年(令和3年)3月に「無電柱化推進計画」を策定し、都市防災機能の強化/安全で快適な歩行空間の確保/まちの景観づくりを無電柱化計画の3つの目的としています。これまでも無電柱化を進めてきた大田区ですが、無電柱化整備完了区間(2020年4月時点)は区道(約777㎞)の約1.4%にすぎません。そこで、区内の無電柱化の実情を都市基盤管理課に聞きました。

 現在の一般的な無電柱化方式である電線共同溝方式で無電柱化を進めるには、莫大な費用と長い工事期間(400mに7年を要す)以外にも地上機器を置く2.5mの歩道の確保が必要です。従って、狭い道路の無電柱化は現時点では難しく、また用地確保では沿道住民の協力も必要となる、と担当者。

 区の「推進計画」は、今後10年間で優先的に無電柱化を推進する羽田地区などの15路線を指定しています。15指定路線につながる道路の無電柱化の可能性も示されていますが、狭い道路の無電柱化には技術革新を待つしかないでしょう、と担当者。

 電気/通信事業者の利権絡みが無電柱化の障害となっていることはないのでしょうか。

 ロンドンでは、コスト高だが無電柱化は風雪災害に強く、供給信頼度を向上させ、景観もよくなるという市民の意識が無電柱化を後押ししたとも聞きます。日本の川越市金沢市でも、市民たちが主体となって行政や事業者に働きかけて無電柱化を実現し、地域経済の活性化ができたそうです。

 誰かがやってくれるのを待っているだけでは、無電柱化による「安全で快適なまちづくり」はいつまでたっても実現しないのでしょう。

 外国から来た友人が東京で驚いたのは、ガードレールもない狭い2車線道路に電信柱が林立し、電柱スレスレにバスが、さらには自転車、歩行者がすり抜けて行く光景でした。私たちには見慣れているまちの光景ですが、友人が住む電信柱がないロンドンから見れば、東京のまちは「危険が一杯」と映るのでしょう。

 諸外国の都市と比べれば、東京23区の電信柱の地中化は8%とダントツに立ち遅れています。(右図参照)

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国土交通省2017年調べ

 

 ロンドンは法律で架空線すべてを排除、ニューヨーク(83%の無電柱化)も電線類の地中化条例を制定。いずれも19世紀末でした。一方、日本では、戦後の復興で高まった電力需要への対応で、「仮置き」として立てたコストの安い電柱がその後も全国に立ち並びます。バブル開始時の1986年、国は第1期無電柱化計画を策定しましたが、架空線の23倍のコスト高(1㎞で約5.3億円)で計画は挫折。2016年に無電柱化法が施行されても、緊急輸送道路における電柱の新設の禁止、既存電柱は当面の間の占有可などと、国の規制は緩く、今も年7万本ほどのペースで電信柱が全国で増えているとか。

 背景には住民の景観への無関心と危機管理よりコスト面に軸足を置く公共性を欠く事業者の姿が見えます。